研究概要 |
本研究の目的は、擬態で有名なアフリカ産の蝶Papilio dardanus(オスジロアゲハ)の翅の多様なカラー・パターン形成とその進化の問題を、主に理論モデルを使った数理的解析あるいは計算機シミュレーションにより解明し、他の実験的方法論(発生遺伝学、遺伝子系統学、計量形態学、生態学)による結果と併せて総合的に検討し、その統一的原理を発見する事である。現在までに得られている主な結果は以下の通りである。 1)オスジロアゲハの翅のカラー・パターンは本質的に縞紋様(stripe-like pattern)である。 最初の論文(T.Sekimura et al.(2000),Proc.Roy.Soc.Lond.B267,851-859,)で得られた上記の結果を実際に観察されるさまざまなパターン、例えば、雄様雌の中間型パターンなどに適用し、その正当性を確かめた(H.F.Nijhout et al.(2003), C.R.Biologies,326,717-727)。 2)雌のカラー・パターンに見られる多様性を生成するのは少数の要因である。 雌の多様なパターンは一見非常に異なって見えるが、我々の結果から言えば、お互いに非常に似ており、反応拡散方程式における拡散係数:d、スケールパラメータ:γなどを含めて同じ反応パラメータ値を使い、閾値関数と境界条件をほんのわずか変えることで達成できる事がわかった。すなわち、カラー・パターン生成の鍵となる要因として、(1)縞模様のモードを選ぶパラメータの値、(2)色を決める閾値関数、(2)羽の外形、(4)境界条件などが考えられる。 3)擬態多型雌の分類結果を理論モデルと計量形態学的方法で比較検討した。 2)の要因を基にパターンを分類できる。その結果を、他の実験的方法(例えば、計量形態学)による分類結果と比較してみると、両者は独立に得られたにもかかわらずほとんど同じ系統分類結果を与えることが明らかになった(H.F.Nijhout, (2003), Evolution & Development, 5:6,579-592)。 4)蝶の前翅と後翅のカラー・パターン間の関係について。 前翅と後翅のパターンが一緒に共同して一つのまとまったパターン(あるいはメッセージ)を与えているように見える。この現象は、我々の反応拡散モデルの視点から見ると、前翅と後翅のパターンの関係は見かけのものであり結果的なものであることになる。つまり、前翅と後翅の外形は多少異なるが、反応拡散方程式において同じパラメータを使いほとんど同じ閾値関数、境界条件を使ってパターンを決めるので、必然的に前翅と後翅のパターンはつながってしまうのである。
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