研究概要 |
哺乳動物雄性生殖細胞細胞質特異的に存在するポリ(A)ポリメラーゼTPAPは,精子形態形成に必須である。しかしながら,その標的mRNAやポリ(A)鎖伸長機構については不明な点が多い。申請者は,卵形成過程における母性mRNAの細胞質でのポリ(A)鎖伸長を制御するシス配列であるCPE配列(cytoplasmic polyadenylation element, UUUUU/AAU)とその結合タンパク質CPEBあるいはそのホモログが,TPAPによる球状精細胞特異的なポリ(A)鎖伸長に関与しているのではないかと考え解析を行っている。これまでに同定されているTPAPの標的mRNAは,基本転写関連因子であるTrf2やTFIIAγおよびTAF10などであり,それらの3'非翻訳領域(3'UTR)中にはCPE様配列が存在した。そこでCPE配列をセンスプライマーに用いた3'RACE法により,CPE配列を有するmRNAのいくつかをマウス精巣cDNAライブラリーよりクローニングした。それぞれについて,野生型とTPAP欠損マウス精巣でのmRNAサイズを比較した結果,Nut2などいくつかの転写関連因子がTPAPの標的mRNAであることが明らかとなり,CPE様配列がシス制御配列の一つであることが支持された。しかしながら,CPE様配列を有していてもポリ(A)鎖伸長を受けないものも存在することから,CPE配列は必要条件の一つではあるが,十分条件ではないことが示唆された。一方,CPEBの標的mRNAであるSCP1とSCP3のmRNAのポリ(A)鎖長は,TPAP欠損マウスのパキテン期精母細胞でも野生型と同じであることや,CPEBとTPAPの発現時期は同調していないことから,CPEBはTPAPによるポリ(A)鎖伸長には関与していないことが推測された。そこで,データベース上に存在するほかの3つのCPEBホモログについて発現解析を行った結果,そのうちの一つが精巣で高発現しており,かつTPAPの発現と同調していた。このCPEBホモログに対する特異的抗体が得られたので,タンパク質レベルでの発現・局在を明らかにするとともに,免疫沈降されるmRNAの同定を行うことにより,TPAPによる球状精細胞特異的なポリ(A)鎖伸長への関与について検討している。今後はこのCPEBホモログの解析を進めるとともに,標的mRNAの3'UTRに結合するような制御因子の探索・同定を行うことにより,TPAPによる球状精細胞細胞質特異的な特定のmRNAのポリ(A)鎖伸長制御機構についてさらに解析していく予定である。
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