研究概要 |
細胞内タンパク質の品質管理の破綻による疾患の概念が確立され、フォールデイング病と総称される脊髄神経変性疾患などの遺伝疾患に注目が集まっている。からだのタンパク質の工場である肝臓は、小胞体負荷による細胞傷害の典型的な病像を観察することができる。研究代表者は、肝がんの根治目的で行われる広範囲肝切除に際して、残存肝のoverloadingによる小胞体ストレスを起源とする急性肝不全が生じることを見いだした。95%の広範囲肝切除ラットの残存肝では、タンパク質の異常蓄積による特徴的な小胞体の膨化が観察される。さらに、HSP70の誘導剤として考えられてきたgeranylgeranylacetone(GGA)がこの実験モデルにも極めて有効であることを見いだし報告した。本研究は、研究代表者らが開発したストレス評価用DNAチップを用いて小胞体機能異常を網羅的に解析し、その病態と治療戦略を探ることを目的とした。 本年度は、ラットの90%肝切除モデルを作成し、ラットのストレス解析用DNAチップ(1200遺伝子を搭載)を用いて切除後の遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、72遺伝子の発現がup-regulationし、96遺伝子の発現がdown-regulationされていた。なかでも、Bip,Hsp22,chaperonine10の特徴的な発現亢進とHsp27の発現低下をみとめた。GGAを前投与すると、Hsp72,Bip,Hsp27の発現が亢進し、新規サイトカインであるGro1の発現が著明に抑制された。これらの変化は、RT-PCRならびにウエスタンブロット法により確認している。このように、広範囲肝切除後の急性肝不全の病態とGGAによる治療効果を確認することが出来た。現在、本研究成果の論文を作成中である。
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