研究概要 |
分子シャペロンの一種であるVCP(別名p97)は、オルガネラ膜形成や異常タンパク質の除去システムなどの多彩な細胞機能に関与しており、これらは異なるアダプター分子の介在によってなされると考えられている。私たちがVCPの新規結合タンパク質として同定したSVIP (small VCP-interacting protein)は、培養細胞内で過剰発現させると、ポリグルタミン病などの神経変性疾患において観察されるような細胞内空胞が形成される。SVIPの細胞内機能を解明するために以下の研究を行った。 1、SVIPにより形成される細胞内空胞の解析:SVIPの過剰発現にともない細胞内に形成される巨大な空胞の形成機構を解明するために、HeLa細胞にSVIPを過剰発現させ、電子顕微鏡による解析を行った。その結果、空胞の外側にそってリボソームが分布している様子が観察された。また、金コロイドを用いた免疫電子顕微鏡観察の結果、空胞膜上には小胞体膜タンパク質であるチトクロムNADPH還元酵素が分布し、空胞膜の内側には小胞体内腔タンパク質であるBiPが分布していた。以上の結果から、これらの空胞は小胞体が肥大化してできたものであると結論された。最近、VCPが小胞体タンパク質の分解機構(ERAD)に関与している可能性が指摘されているが、SVIPの過剰発現によってERADが阻害され、小胞体の機能に異常が生じた可能性が考えられた。 2、VCP-SVIP複合体の性質の解析:VCPには、これまでに2種類のアダプタータンパク質(p47,Ufd1)が同定されている。VCP-SVIP複合体と既知のアダプタータンパク質との関係を詳細に解析するために、精製タンパク質を用いて結合実験を行った。その結果、p47,Ufd1およびSVIPのVCPへの結合はお互いに競合的であり、結合部位を共有していることが明らかとなった。このことより、SVIPはp47,Ufd1に続くVCPの第三のアダプター分子である可能性が強く示唆された。
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