典型的な強相関電子系としての遷移金属酸化物の特異な電子状態に関して、その現象の本質を述する最小の模型を導出し、それに対してハートレー・フォック近似による理論的手法、および密度行列繰り込み群の手法や量子モンテカルロ法などの計算物理学的手法を用いて研究を行った。特に、準1次元系の三角格子構造を持つ遷移金属酸化物に焦点を当て、その電荷自由度の構造的フラストレーションが導く効果について調べた。 平成14年度の主要な成果は次の通りである。 (1)擬1次元3角格子系の新物質であるBi_xV_8O_<16>の電荷と軌道の秩序化に関する研究を進めた。特に、摂動計算と少数系の数値的対角化計算を組み合わせ、可能な電荷・軌道整列パターンとスピン状態を予測した。その結果この物質の基底状態が、電荷・軌道秩序を伴ったスピンシングレット状態にある可能性を、はじめて示唆した。 (2)電荷秩序系物質の高温相での異常な電荷ゆらぎとスピン応答に対し、スピン・擬スピン結合模型の量子モンテカルロ計算を実行し、磁気応答の異常性の起源を明らかにした。この結果をもとに、α'-NaV_2O_5における電荷ゆらぎとスピン励起の関係を考察した。 (3)非超伝導銅酸化物PrBa_2Cu_4O_8のCuO二重鎖の光学伝導度スペクトルが、拡張ハバード模型の平均場近似での計算結果と良く合うことを示し、この系の異常な電荷ゆらぎの存在を明らかにした。また、密度行列繰り込み群の手法によりこの模型の精密な基底状態を計算し、電荷フラストレーションが電荷秩序を融解させ金属相が出現することを示した。
|