研究概要 |
本研究の目的は強磁性-n型フェリ磁性or反強磁性半金属物質の接合により安定化層を含まないスピンバルブ素子を全て酸化物で構成することである。もしこの構想が実現すれば、磁気メディアの開発分野に重大なインパクトを与えるものと思われる。本年度においては特に反強磁性反金属の合成を試みた。具体的には、ダブルペロブスカイト型強磁性半金属物質Sr_2FeMoO_6のバンド構造を参考とし、スピンモーメントの大きさが等しい3d元素と4d及び5d元素の組み合わせからなる物質の合成実験を網羅的に行った。この中で、Bサイトがスピンモーメントの大きさが等しい3d元素V^<3+> S=1と4d及び5d元素M0^<4+>, Re^<5+> S=1の組み合わせからなるダブルペロブスカイト物質(La,A)_2VTO_6(A=Ca,Sr,Ba:T=Mo,Re)の合成に成功した。VイオンとMo,Reイオンが結晶中で同じ磁気モーメントの大きさを持ち、反強磁性的に配列していればこの物質群が反強磁性半金属である可能性がある。T=Reのサンプルに関してはマルチフェイズのサンプルしか合成されていないのでどのような物性を示すのかは明確ではない。T=Moの物質の電気抵抗の温度変化はA=Caの物質を除き電気抵抗は金属的であり、磁気測定からA=Ca,Srの物質において120〜130K付近に磁化率の減少が観測される。磁化率の転移温度より高温の振舞いはキュリーワイスで表すことができワイス温度は負である。このことから磁化率で見られる転移は反強磁性転移であると考えられる。以上のことよりT=Moの系は反強磁性半金属であることが示唆される。しかしながら、VとMoの元素秩序の度合はx線回折より26%程度であり、また磁化率、比熱の測定によりこの反強磁性転移に参加しているスピンの数は数10%と見積もられる。
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