研究概要 |
環境汚染物質として有名なダイオキシンは妊娠12.5日(膣栓発見日を妊娠0日として)マウスに強制経口投与すると、胎児に口蓋裂と腎盂拡大という胎児奇形を生じる。ダイオキシンのうち、2,3,7,8四塩化ジベンゾパラジオキシン(TCDDと略)の投与量を0(溶媒),0.625,1.25,2.5,10,20,40,80μg/kg母体体重の割合で投与すると、用量依存的に上記2つの奇形の誘発率が増加する。ダイオキシンはアリール炭化水素受容体とよばれる受容体(Aryl hydrocarbon receptor, AhRと略)を介して、その毒性を発揮する。AhRの遺伝子欠損マウスのヌル型AhR-/-の胎児では、2つの奇形は全く生じない。ヘテロ型AhR+/-では、野生型に比べて、感受性が落ちる。この実験系をもとに本年度は、さらに実験を展開した。AhRによって動く下流遺伝子の中に、AhRの作用を抑制する蛋白が発現してくる。これをAhR抑制因子(AhR repressor, AhRR)という。AhRR遺伝子を欠損したマウスを作製した。このマウスを用いて、ダイオキシンの胎児毒性を評価した。実験する前には、AhRの作用を抑制する因子が欠損することから、AhRRの遺伝子欠損マウスでは、胎児発生毒性が増強することが予想された。実際にAhRR-/-の胎児の口蓋裂、腎盂拡大の誘発をTCDDの用量を上記の通り、増加させて、野生型胎児との比較を行った。結果は予想に反して、AhRR-/-胎児において、奇形誘発は増強しなかった。本年度は、ここまでしか解析はできなかった。 なぜ、AhRRがTCDDの毒性を増強しなかったのかについて、さらに検討が必要であると感じ、解析を進めている。
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