研究概要 |
内分泌撹乱作用のある有機スズ化合物は,環境中では化学的分解とともに,微生物分解を受けると考えられている。本研究では,海洋環境中でのtributyltin (TBT)耐性菌・分解菌の機能と生態を分子生物学的アプローチで解明し,自然浄化機能を評価することを目的としている。 平成14年度は,まず我々が分離したTBT耐性海洋細菌から得られた耐性遺伝子を詳細に解析した。その結果,TBT耐性遺伝子は細胞内からタンパク質をペリプラズムへ輸送するタンパク質であるSec Aであることが明らかになった。すでに,我々は膜流動性を変化させるtransglycosylase遺伝子が細菌にTBT耐性能を付与することを報告したが,今回,あらたなTBT耐性遺伝子が解明されたことから,TBT耐性には物質排出系遺伝子が関することが強く示唆された。 平成15年度は,四国九州沿岸の数地点でTBT耐性菌の優先率と汚染実態の関連を調べた。その結呆,TBT汚染の進んでいるところでTBT耐性菌が多いわけではなく,海水,底泥中にはTBT濃度が低くても生菌数中にTBT耐性菌が30%存在することが明らかになった。 さらに、有機スズ存在下で飼育したヒラメの腸内細菌叢を調べたところ、有機スズ耐性のAlteromonas macreodiiが特異的に増加することが明らかになった。この菌は海水中でも同様に有機スズがあると増加することから、有機スズ汚染は海洋環境細菌中に耐性菌を増加させ、それが魚類腸内細菌叢へ影響を与えることが明らかになった。
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