研究概要 |
最近,温度感受性Simian Virus40(SV40)大型T抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製することで,セルトリ細胞,ライディッヒ細胞の本来の性質を持った培養細胞株を得ることができ,個々の細胞への内分泌攪乱物質の作用をみることが可能になった.そのセルトリ細胞株(TTE3)とライディッヒ細胞株(TTET)を用いて,エストラジオール(E_2),ジエチルスチルベステロール(DES),ポリカーボネイト,ポリスチレン樹脂等の原料として用いられ,環境中に多量に排出されているビスフェノールA(BPA),フタル酸エステルの代謝産物で,セルトリ細胞への毒性と催奇形性を起こすといわれているフタル酸モノ-2エチルヘキシル(MEHP),ダイオキシン受容体のリガンドであるβナフトフラボン,さらに,BPA,MEHP,β-ナフトフラボンの3種類の物質を複合した場合の影響をTTE3およびTTE1培養株を用いてステロイドホルモン受容体遺伝子変化ならびにホルモン産生への影響をみることを目的として実験を行った.その結果,5種類の化学物質の中で,ER結合型とされるDES,BPA,E_2で,ARの遺伝子の発現がTTE1で強く抑制され,βナフトフラボンではTTE1のAR発現が増強された.StARではすべての添加物質についてTTE1が強く抑制され,3種複合添加でその抑制が増強された.E_2,DES,BPA,MEHP,βナフトフラボンの5種類とBPA,MEHP,βナフトフラボンの3種を複合添加した結果,セルトリ細胞とライディッヒ細胞は同じ物質を添加しても,ステロイドホルモン受容体の遺伝子発現において異なった反応を示すことが示唆された.また,ERを介して女性ホルモン様作用を持つ物質がセルトリ細胞のARよりライディッヒ細胞のARをより強く抑制し,セルトリ細胞のStARよりライディッヒ細胞のStARの方がより強く抑制されていることが明らかになった.さらに,βナフトフラボンではライディッヒ細胞のARの発現が増強されるという結果が得られ,AhRを介して作用を発現する物質とERを介して作用を発現する物質では細胞に対する影響の与え方に差があることが示唆された.
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