研究概要 |
工業化時代の始まりと共に環境に放出された化学物質は野生生物の健康に大きな脅威となっており、それは現在も続いている。今までの環境問題は、致死作用、ガン化あるいは奇形といった健康影響のみに焦点が当てられてきた.しかし、最近見出された多くの事例から、内分泌撹乱と言った今までにはなかった新たな観点からの研究が必要となってきている。 特に環境中に放出されたダイオキシン,農薬,ポリカーボネートの原材料,界面活性剤をはじめとした化学物質がホルモンの受容体,特にエストロゲン受容体に結合することによって体内のエストロゲンと同じ作用を示し,野生動物種の性器異常,発生異常,個体数の減少,ヒトの乳癌、子宮内膜症、精巣癌の増加,精子数の減少を誘起している可能性が示唆された。欧米でこの問題に強く関心がもたれるようになったのは1990年代前半からで、日本では1997年になってからこの問題が広く取り上げられるようになった。以後、厚生省や環境庁を中心に、胎児を含めたヒトに対する内分泌撹乱物質の曝露状況調査が進められており、その結果、日本人の体内にも多くの内分泌撹乱物質が蓄積していることが判明してきた。そして環境中に放出された化学物質の多くが、ホルモン様あるいは抗ホルモン様に作用するという実験的な証拠、および野外での観察結果が蓄積されつつある。動物の生殖系の発達は内分泌撹乱物質の曝露によって大きな影響を受ける.野生動物の研究から、内分泌撹乱物質の曝露により、雌雄ともに生殖腺および生殖腺付属器官の発生、機能分化およびホルモンの代謝に影響が出ている。多くの野生動物種の生殖系で同様の異常が見られることから、ヒトに対する影響も懸念されている。 本研究では、モデル動物としてマウスへの影響に関する研究だけでなく、内分泌撹乱物質が水系に入ることから、魚類・両生類の発生・生殖に対しても着目し解析を行った。これにより、内分泌撹乱物質を簡便に検出する系を確立し、発生・生殖に対する作用機構の解明を試みた。
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