研究概要 |
白金,ロジウム,あるいはパラジウムなどの貴金属触媒を含浸法などの手法で担持した酸化チタンを用いてL-リシンからのピペコリン酸への光触媒環化反応を行い,ピペコリン酸の生成速度,選択率,および光学純度にあたえる貴金属や酸化チタンの影響を調べた.一般的な傾向として,ピペコリン酸選択率あるいは生成速度が上がると光学純度が低下したが,高結晶性酸化チタンであるHyCOM (Hydrothermal Crystallization in Organic Media)を用いると比較的高い選択率と光学純度を保ったままで高い速度が得られた.生成するピペコリン酸の光学純度は,原料のリシンのαとω位のどちらのアミノ基が正孔によって酸化されるかによって決まると考えられる.すなわち,前者ではラセミ体,後者ではL体となる.この酸化選択性は,担持金属ではなく,光触媒である酸化チタンそのものの性質による.一方,生成物の選択率は,リシンの酸化とそれに続く加水分解,脱水縮合によって生じた2種類の環状シッフ塩基の還元効率により決まる.高性能の担持金属は,この還元効率が高いために選択率が向上するが酸化段階で決まる光学純度に近づくことになる.α-15N-L-リシンを原料として用い,副生するアンモニアおよびピペコリン酸中の窒素同位体分布から,リシンのαおよびω位の酸化反応量および環脈状シッフ塩基の還元効率を求めると,1,2-イミンをもつ環状シッフ塩基の方が1,6-イミンをもつものより還元されやすく(右スキーム),このためにピペコリン酸選択率が低い場合に高い光学純度が得られることが明らかになった.
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