研究概要 |
リンを含む多重結合の化合物は、その多重結合の原子間距離が長く、また、π軌道の広がりが大きいため、いわゆるπ軌道の有効な重なりがあまり期待できない。さらに、重周期型元素は混成軌道を形成しにくいことなどから、従来、このような多重結合化合物は不安定であるとされてきた。しかし、分子内にかさ高い置換基を組み込むことにより、いわゆる不安定化学種を安定化できることが明らかになった。そこで、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニルの立体保護効果を利用して、リンを含む新規不飽和系環状化合物の合成に関する検討を行った。2-(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)-1-ホスファエチンにアルキルリチウムを低温で反応させ、ヨウ化メチルでクエンチしたところ、3-アルキル-2,4-ビス(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)-1,3-ジホスファシクロブテタン-1,3-ジイルが生成した。恐らく、2,4-ジホスファ-1,3-ブタジエニルリチウムが中間体として生成し、それが環化してビラジカル誘導体を与えたものと思われる。置換基によって安定性が異なり、塩化ベンゾイルでクエンチした場合、生成物は、転位を伴い、新たなC3OP2の6員環化合物を与え、加熱により、転位を伴った環縮小反応を起こし、C3OP2の5員環化合物が得られた。また、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)存在下、光反応により、4員環状ジメチレンホスホラン誘導体が得られた。これらの興味ある鍵化合物の多くは、X線結晶構造解析によりその構造を確定した。
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