研究概要 |
高選択的かつ高い触媒活性を発現する不斉触媒の開発を目的として極めて剛直な光学活性キレート錯体の合成を試みた.まず,最初に新しい不斉ホスフィン配位子の設計と合成を行った.新たに設計した配位子は,4員環骨格を有するホスフィン(ホスフェタン)の二量体であり,t-ブチルホスフィンより,1-t-ブチルホスフェタンボランを経て合成した.この配位子のロジウム(I)錯体の触媒活性をデヒドロアミノ酸の不斉水素化で検討した結果,ほぼ100%のエナンチオ選択性の発現が観測された.この高い選択性は二つの4員環と5員環ロジウムキレートが縮環した高度に歪んだ分子構造とt-ブチル基による立体遮蔽によるものと考えられる.一方,さらに高いひずみをもつと考えられるベンゾホスフェタンの二量体の合成も行った.この合成では,1-t-ブチルベンゾホスフェタンオキシドを分取用光学活性カラムを用いて光学分割し,それぞれのエナンチオマーを二量化することにより目的物を得た.この配位子の不斉触媒能をデヒドロアミノ酸の不斉水素化で評価した結果,96%の選択性の発現が観測された.この配位子と類似の1,2-ビス[t-ブチルフェニルホスフィノ]エタンを用いた不斉水素化のエナンチオ選択性がわずか6%であることより,ベンゼン環とホスフェタン骨格を縮環した効果がエナンチオ選択性に著しく反映していることがわかった. これまでに我々が合成した光学活性多元素環状化合物を触媒として用いて,α,β-不飽和ホスホン酸誘導体の不斉水素化を試みた.その結果,最高98%のエナンチオ選択性で水素化物が得られた.また,この手法を用いて医薬品中間体であるα-アミノホスホン酸誘導体を高い光学純度で得ることができた.
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