研究概要 |
平成14年度の本特定領域研究により新規開発された2-(o-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジメチルベンズイミダゾリン(o-HPDMBI)を用いる還元的光誘起分子変換反応に関して,平成15年度はo-HPDMBIとカルボニル化合物の光誘起電子移動反応機構の解明およびo-HPDMBIを用いる光還元法の適用反応基質の拡張の検討を行った。はじめに,o-HPDMBIとカルボニル化合物の光反応において,2位を重水素化したo-HPDMBI-dを用いた反応の検討から,まずo-HPDMBIラジカルカチオンの2位の水素がプロトンとして脱離し,その後の酸化を経てフェノール部位からのプロトンの脱離が起こる反応過程が示唆された。生成するo-HPDMBIの酸化体はベンズイミダゾリウムとフェノキシドの双極イオン構造を有すること,またこの酸化体は水素化ホウ素ナトリウムによる還元でo-HPDMBIへ変換できることが分かった。次に,長波長光を吸収する増感剤の1,6-ビスジメチルアミノピレン(BDMAP)とo-HPDMBIを用いる方法(複合光増感法)を用いて脂肪族エポキシケトンのアルドールへの変換を行ったところ,従来の1,3-ジメチル-2-フェニルベンズイミダゾリン(DMPBI)-酢酸系を用いた場合よりも良好な結果が得られた。これに対して,既知の二水素供与体であるHantzschジヒドロピリジン(HDHP)を用いたBDMAP光増感反応ではアルドールの収率は顕著に低かった。さらに,この複合光増感法をシクロプロピルケトンの開環反応およびアルケニルケトンの環化反応に適用したところ,いずれも対応する目的物が比較的良好な収率で得られた。この複合光増感法は短波長部にしか光吸収帯をもたない脂肪族反応基質の変換に特に有効であり,今後はさらに他の官能基の変換に適用して行く。
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