研究概要 |
3価鉄塩触媒により,スチレン誘導体の[2+2]環化付加反応が進行し対応するシクロブタン誘導体が得られることを見出した。このtrans-アネトールの環化2量化反応は,電子豊富な基質を1電子酸化して発生するラジカルカチオン種を他の電子豊富な分子が補足することによって進行していると考えられる。そこで,電子不足な基質と電子豊富な基質の間の1電子移動を,鉄イオンが橋渡しするような触媒反応が構築できれば,ドナー分子の電子をアクセプター分子へ鉄イオンが橋渡しすることで生じるラジカルイオンペアにより環化体が得られることが期待し,trans-アネトールと電子不足オレフィンとの反応を種々検討したところ,メチルビニルケトンをアクセプターとした時に,[2+2]型の環化体が不満足な収率ながら得られることがわかり,さらに1,4-ベンゾキノンをアクセプターとすると,[2+2]型環化体は全く梅られず2,3-ジヒドロベンゾフランが生成した。反応を最適化したところ,3mol%のアルミナ担持過塩素酸鉄触媒でほぼ定量的にを得ることができた。この反応は,3価鉄イオンでアネトールが酸化されカチオンラジカルが生じ,生じた2価鉄イオンがキノンで酸化されアニオンラジカルを生じると共に3価鉄イオンを再生し触媒サイクルが形成されたと考えられる。もし,この作業仮説通りカチオンラジカルとアニオンラジカルの[2+3]環化から反応が進むのであれば,極性の高い常温溶融塩を反応媒体として利用することでさらに反応効率を向上できるものと,期待した。常温溶融塩を種々検討したところ,[bmim]PF_6を反応媒体に用いると,アセトニトリル中では完結に数時間要した反応がわずか数分で完結し,劇的な反応加速が実現した。また,[bmim]PF_6溶媒中では2価鉄塩も触媒として作用し,Fe(BE_4)_2が最も優れた触媒になることがわかった。 2,3-ジヒドロベンゾフラン骨格は多くの植物由来天然物に共通に含まれ不斉合成法の開発が望まれる。本反応は1電子移動を契機として開始する反応であり,不斉触媒反応化は困難と考えられた。そこで,鉄塩触媒反応に酵素反応を組み合わせたハイブリッドプロセスによる2,3-ジヒドロベンゾフランの不斉合成を検討した。3位にヒドロキシメチル基を有するペンゾフラン誘導体を合成し,リパーゼ不斉アシル化反応により光学分割を検討したところ,5位のフェノール性水酸基を適切に保護する必要があったが,完壁に光学分割することに成功した。
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