研究概要 |
Bicelleは、リン脂質のアルキル鎖間の疎水性相互作用にもとづく、リン脂質リッチな円板状の2重膜構造が、その円周部を界面活性剤(可溶化剤)の規則的な配列により安定化された円板状の分子集合体である。これは生体膜モデルの一つであり、膜タンパク質などの構造解析に有用な媒体と考えられる。本研究ではリン脂質としてDMPC、可溶化剤としてCHAPSOを用いてその構造・相図について検討し、Bicelleの構造の特性解析を行った。適当な組成、濃度条件では確かにBicelleが形成されることが光散乱・小角X線散乱測定により確認できた。組成、濃度など多様な条件について求めた相図をもとにして、溶液中で分子分散した可溶化剤分子の濃度を決定することにより、実際に混合ミセルを構築するDMPC, CHAPSO分子の総量が求められた。そして、この濃度を保った条件下で静的光散乱測定により混合ミセルの分子量が決定できた。界面活性剤総濃度C_tが50mM、[DMPC]/[CHAPSO}=0.5,0.75,1.0の場合、混合ミセルの分子量はそれぞれ11.6x10^4,6.50x10^4,4.46x10^4である。DMPC分子の形状についてのこれまでのデータを用いると、CHAPSO分子は円板の膜面内では垂直・平行の両方に配向した形で埋め込まれている事がわかった。また、その配列がDMPC, CHAPSOの組成比qが変化するにつれて変化していることが示唆された。この結果は、動的光散乱、小角X線散乱から求められた流体力学的半径、回転半径の結果とよく対応している。それと同時に、円板状の混合ミセルの分子量、サイズに基づけば、混合ミセル粒子と膜タンパク質分子が互いに1:1になるように混合することにより、膜タンパク質を定量的に混合ミセルに埋め込むことができるので、生体条件下での膜タンパク質の特性解析(NMR, X線解析)が可能となった。組成比がさらに大きくなると、膜面内に安定にCHAPSOを埋め込むことができなくなり、その結果、円板状の形状から、より多くのDMPC(より少ないCHAPSO)を集合化させるために棒状の形状に形態転移するものと考えられる。今後は、この棒状の混合ミセルについても、その集合メカニズムを明らかにしていくことを計画している。
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