研究概要 |
ブルー相(BP)は、キラルネマチック(コレステリック)相(N*)と等方相の間の極わずかの温度範囲(通常1K程度)で出現することのある液晶相の一つであり、光学的には等方的であるが可視光の波長オーダーの三次元周期構造を有することを特徴とする。本研究では、BPに高分子ネットワークを導入することにより、液晶分子のダイナミクスを失うことなく、BPの発現温度範囲を60K以上に拡大することに成功した。高分子ネットワークを形成させるためのモノマーとして2-ethylhexyl acrylate(EHA,Aldrich),1,3,3-trimethylhexyl acrylate(TMHA,Aldrich),n-hexylacrylate(HA,Aldrich),6-(4'-cyanobiphenyl-4-yloxy)hexyl acrylate(6CBA,液晶性モノマー)およびdiacrylate monomer(RM257,Merck Co.Ltd.)を用いた。液晶としてネマチック混合体(JC-1041XX,Chisso)と4-cyano 4'-pentyl biphenyl(5CB,Aldrich)の等モル混合体を用いた。ZLI4572(Merck Co.Ltd.)をキラルドーパントとして用いた。光重合開始剤として2,2-dimethoxy-2-phenyl acetophenone(DMPAP,Aldrich)を加えた。(JC-1041XX/5CB/ZLI4572=48/48/4)混合液晶について偏光顕微鏡観察を行ったところ、330.7K〜331.8Kの温度範囲でBP特有の板状組織が観察された。同一温度域で550nmをピーク波長とする特性反射が観測された。この反射はBP Iの(110)面による反射と帰属される。以上の結果よりSample 1は330.7K〜331.8KでBP Iを示すことが確認された。この温度域より高温では等方相、低温ではN*であった。光重合後の(EHA/RM257/JC-1041XX/5CB/ZLI4572=4/3/45/43/5)複合系では、326.4Kにおいて等方相の暗視野状態とBP特有の板状組織の可逆的な転移が観測されたが、260K以下に冷却してもN*の出現は観察されなかった。反射スペクトル測定においても、260K(装置下限)〜326Kで540nm付近に反射ピークが観測され、N*があれば出現するはずの410nmの特性反射はどの温度域でも観測されなかった。以上のことから、光重合後の(EHA/RM257/JC-1041XX/5CB/ZLI4572=4/3/45/43/5)複合系において260K〜326.4Kの60K以上の温度領域に渡りBPが発現したことが明らかとなった。筆者らの知る限り、これほど広い温度幅に渡りBPが観測された報告例はこれまでない。
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