研究概要 |
微粒子状の物質を試料とする時間分解分光測定では,従来,試料の光散乱が大きな妨害となっていた.このため時間分解測定の際に透過法ではなく拡散反射法を用いる例が圧倒的に多かった.しかし,拡散反射法では,試料の多重散乱によってポンプ光とプローブ光の光路差に分布が生ずるために測定の時間分解能が低下することが避けられない.これに対して,近赤外領域の分光法では,微粒子の試料に対しても時間分解能を損なうことなく透過法を用いることができる.本年度,岩田らは,自作のフェムト秒時間分解近赤外分光計を利用して,二酸化チタン微粒子を光照射したときに生じる物理・化学過程を時間分解近赤外分光法で追跡する課題に取り組んだ.白金を担持した二酸化チタン微粒子(粒径約20nm)を400nmの光で照射すると,波長0.8μmから1.4μmにわたる幅広い過渡吸収帯が観測された.この吸仮帯は,光照射によって生成した電子による吸収帯と考えられる.スペクトル形状に顕著な時間変化はなく,観測している状態の電子の生成は装置関数の範囲内(200フェムト秒程度)で即時的であった.電子の減衰曲線には,数百フェムト秒の速い成分と3ピコ秒程度では減衰しない長寿命の成分の2種類があった.ポンプ光強度を大きくして時刻0における電子の生成密度を大きくすることによって,速い減衰の成分の相対比が大きくなることが分かった.今回観測された電子は,光触媒反応において還元反応に利用されるものである.フェムト秒時間分解近赤外分光法を利用することによって,実際の化学反応に用いられる微粒子の試料における光触媒反応の初期過程を観測することができた.
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