研究課題
特定領域研究
本研究の目的は、スピングラス等の統計物理や情報理論に共通する複雑模型の位相空間構造を解析する手法を開発し、その統計的特性を明らかにすることである。特に確率的アルゴリズムの一つである拡張アンサンブル法の特徴を積極的に利用し、また方法論の発展を念頭において研究を進めてきた。以下にその成果をまとめる。1.モンテカルロ法及び解析手法の開発:多数のランダムウォーカーを用いた新しい有限温度計算手法として、ポピュレーションアニーリング法を提唱した。また、秩序状態の不安定性を議論するための観測量としての自由エネルギー差を計算方法や、シミュレーション結果に対する主成分分析等の多変量解析の応用を試みてきた。2.情報理論での展開:情報理論の分野で進展のあった確率伝搬法は近年サーベイ伝搬法と呼ばれる新しい方法に展開している。この方法はすでに幾つかの間題に応用されているが、その性能や妥当性には不明な点が残されていた。我々はサーベイ伝搬法のもつ未定パラメータをモンテカルロ法により決定する手法を提案し、具体的にそれが機能することを検証した。また、ソーラス符号の問題の解空間をモンテカルロ法で探索し、その結果を主成分分析で解析することにより、真の安定解と準安定解を自動的に分離することに成功した。3.スピングラス系への知見:スピングラス系への大規模モンテカルロ計算の解析から、摂動に弱い非常に不安定な秩序状態やカイラルグラス相の存在等の特異な性質が明らかになった。また、スピン系の相転移の研究では、モンテカルロ法による有限格子の計算結果から無限系を外挿する手段として有限サイズスケーリングを用いる。我々はその方法を再考し、新しい自然なスケール変数を提案するに至った。この考えは転移点近傍の解析に一般的に使うことができ、イジングスピングラスの問題ではこれまでに解決されていなかった臨界指数の問題を解消することができた。
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