研究課題
基盤研究(S)
本研究では、拡張型テトラチアフルバレン骨格を持つジチオレン金属錯体による中性単一成分分子性超伝導体、高い転移温度をもつ(強)磁性金属および溶解性分子性金属等の実現を目標とし、配位子の修飾や中心金属の選択により一連の新物質を創成し、この分子性結晶と金属結晶の性質をあわせ持つ新しい物質群の構造、物性および機能性を明らかにした。1)新しい単一分子だけで出来た分子性金属[Ni(tmdt)_2](tmdt=trimethylenetetrathiafulvalenedi thiolate)が金属の厳密な証明であるフェルミ面を持っていることを証明するために、33テスラ強磁場を使用し、マイクロカンチレバーを用いた微小結晶の磁化測定を行った。その結果[Ni(tmdt)_2]の磁気量子振動の観測に成功し、[Ni(tmdt)_2]が電子とホールからなる三次元的なフェルミ面を持つ金属であることを確認した。この研究により新たに設計・合成された中性単一分子の結晶、[Ni(tmdt)_2]が3次元金属であることを実験的に完全に証明することができた。2)転移温度の高い単一分子磁性金属に関しては、初めての単一分子性金属[Ni(tmdt)_2](tmdt=trimethylenetetrathiafulvalenedithiolate)と同型構造を持ち、奇数個の1電子をもつ金錯体分子[Au(tmdt)_2]を合成し、この錯体分子の結晶が、従来の分子性伝導体では考えられない、代表的な反強磁性無機金属であるマンガンの転移温度(約100K)より高温の110Kにおいて反強磁性秩序を持つ事を見出した。また未発表であるが、ごく最近ミクロ単結晶の伝導度の実験により転移温度以下においても金属的な電気抵抗の温度依存性を確認した。このように高い磁気転移を持つ分子性金属は勿論初めてであり、この研究により当初の目標を達成できた。3)また超伝導体については、最近合成に成功した分子性合金[Ni_<1-x>Au_x(tmdt)_2](0<x<1)の結晶は[Ni(tmdt)_2]よりも大きなファルミ面を持つと考えられ、従って超伝導の実現に有利であると予想される。微小結晶の単結晶の電気抵抗の測定を行った処、通常では残留抵抗が観測されるはずの2K以下の低温で僅かではあるが抵抗が減少を初め、また、反磁性の増大が観測された。この結果は,結晶中に微量な超伝導部分を含む事を強く示唆するものである。本結果は単一分子性超伝導体の存在を明確に示すものであり、今後、本合金系に限らず大きな超伝導部分を持つ結晶を見い出すことが重要な課題である。
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