研究概要 |
(1)レーザーアブレーション薄膜作成装置の組み上げ:エキシマーレーザーを用いた,レーザーアブレーション法による薄膜作成装置を作成した。初期のころは,温度が十分に上がらず,また,均一性に問題があったため,基板の加熱方式をランプ加熱方式に変更した。これにより,均質度の高い薄膜を作成することに成功した。 (2)銅酸化物超伝導体単結晶薄膜の作製:改良したレーザーアブレーション薄膜作成装置で,アンダードープからオーバードープまでの種々のキャリヤ濃度のLa系超伝導体薄膜を作成した。直流電気抵抗率の温度依存性を測定すると,バルク単結晶で得られている相図と一致するものが得られた。 (3)ウエットエッチングの試み:作成した超伝導薄膜をウェットエッチする試みをおこなったが,数種類のエッチング液で試みた結果は,いずれも,良好でなかった。 (4)収束イオンビーム(FIB)による細線作成の試み:.収束イオンビームエッチングにより,薄膜に細線を作ろうとしたが,いずれも良好な結果は得られなかった。 (5)低接触抵抗電極開発の研究:酸化物上に,非常に接触抵抗の低い電極を作成することを目的として,種々の電極形成技術の研究を行ったが,微細加工した試料にたいする良好な結果はえられないまま,研究の終了時期を終えてしまった。以上を振り返ると,酸化物固体でショットノイズを測定するためには,FIBと電子計測機器が一体となった環境が必須であり,研究機関も5年は必須であるというのが実感である。 (6)交流伝導度における超伝導ゆらぎの精密測定による高温超電導体の電子相図の検討:最終年度にいたって,ショットノイズを測定して,銅酸化物高温超伝導体の電子相図を議論するにいたらなかった。代わりに,作成した薄膜にたいして,別途開発したマイクロ波ブロードバンド法を用いて,超伝導臨界温度より高温側の超伝導揺らぎを精密に測定することができるようになった。これによると,不足ドープの試料では,2次元XYモデル的な超伝導ゆらぎという観点ですべてのデータが整合性よく理解きるのにたいして,最適ドープ組成の試料だけは,3次元XYモデル的なゆらぎを示している。さらにドープを進めた過剰ドープの試料では,再び超伝導ゆらぎが二次元的になることがわかったが,過剰ドープの試料については,定量性も含めたすべての面で整合する結果が得られているわけではない。このように,最適ドープ組成の試料だけが異質の揺らぎをしめしており,過剰ドープ組成の試料が示す二次元的な超伝導ゆらぎについて,より定量的な整合性が得られれば,最適ドープ組成の試料のゆらぎの特異性がより明瞭になり,量子臨界点の存在を示唆する結果となっている。より確固たる結論を得るためには,過剰ドープ組成試料での実験結果のさらなる改善,詳細な理論との比較などが必要であり,それらは,現在なお進められている。
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