研究概要 |
本研究が着眼したのは,海底熱水噴出孔から噴出される熱水とその周りに広がる冷海水の界面において進行する分子重合過程である.そのため,海底熱水噴出孔の熱水環境を模した進化フローリアクターを実験室内に建設した. グリシン,アラニン,アスパラギン酸,バリンの4種類のアミノ酸を原料とする出発反応溶液を進化フローリアクターで運転したとき,120分経過後の生成物群には多種多様なパターンが現れた.その要因となるのはアスパラギン酸及びその化合物が造る反応生成物であり,アスパラギン酸がオリゴマーの構成素材のほかに触媒として機能を有することを示唆する.このことは,化学進化の過程でも生成物質問での相互作用による選択・淘汰が起こり得ることを明示する. 熱水環境においては,アミノ酸のラセミ化が進み,金属イオンの種類によってエナンチオマ過剰率に差が生じた.熱水環境ではL-体,D-体の光学安定性に自発的な偏りが生じることを示唆する. AMPを出発物質に選び,トリメタリン酸をリン酸源にしたとき,それからADP, ATPの生成を確認した.AMPのリン酸化が進化フローリアクター内で進行し,海底熱水噴出孔の近傍がヌクレオシド,ヌクレオチドのリン酸化の環境に適していることがここに確認された.さらにイミダゾール存在下においてはオリゴマーの生成を確認した.リアクター運転の長時間化により3量体以上の分子量を持ち,3'-ホスホジエステル結合を有する物質が生成された.この実験事実は熱水環境が核酸の重合反応を促進する環境でもあり得たことを意味する. 海底熱水環境がオリゴペプチド,オリゴヌクレオチド生成のそれぞれにおいて,反応物が次に起こる反応に影響を与え,かつそれらの反応が触媒型分子の出現をうながす,とする所期の研究目的に対してそれを肯定する結果がここに得られた.
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