研究概要 |
タイガ域(東シベリア・ヤクーツク)のカラマツ林に関して,植生2層からなる1次元モデル(2LM)によって同地域の草地との比較を行った.観測ではカラマツ林が顕熱を多く出し潜熱があまり大きくない.このことは葉の生理特性に特に差異を与えなくても,カラマツ林において蒸散に関わる葉の面積が小さいことで説明できることがわかった. 2LMをJarvis型気孔パラメタリゼーションに対応できるようにした.植物生理生態の研究者らが北東アジア域の複数サイトについて,サイトごとに最適値を決めたパラメータセットと,すべてのデータをプールして決めた潜在的な応答特性を表す共通のパラメータセットの両方を試験したところ,両者はほぼ同等に水・エネルギーフラックスの季節変化を再現できることがわかった.ヤクーツクカラマツ林については,他の地域に比べて夏期の蒸発散が抑制されている.感度実験の結果,ヤクーツクのみでパラメータを決めると最大気候コンダクタンスが小さいために蒸散抑制が起きると解釈されるが,プールした潜在応答特性では土壌水分の低下による抑制とみなされることがわかった. タイ北部の常緑広葉樹林では乾季の終わりに蒸散がピークになる.これは雨季に降り地中深くまで染み込んだ水を乾季後半に樹木が汲み上げて大気に放出していることを意味する.多層植生モデルを用いて様々な根系深の値を与えた水交換の再現実験を行ったところ,この蒸散量のピークと年間流出量をともに良好に再現するには,根系深4-5mが必要だった.この根系の深さが水利用可能性を大きくし,一年を通じて蒸散を維持していることがわかった. 植生土壌内の熱・水環境と土壌呼吸を再現するため,モデルに土壌中二酸化炭素ガス・水溶液拡散過程と二酸化炭素ガス生成過程が考慮された.このモデルをタイ北部常緑林に適用したところ,土壌温度・水分・二酸化炭素ガス濃度の鉛直プロフィールと土壌呼吸の観測結果が再現された.
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