研究概要 |
本研究は、遷移金属をふくむ気相金属原子の反応における電子状態と反応性の関係を実験的に明らかにし、それによって反応のポテンシャルエネルギー面の詳細を解明することを目的とした。金属原子の電子状態はエネルギー間隔が狭いため、衝突によって容易に変化することを考慮して交差分子線装置によって単一衝突条件で観測を行った。 レーザー蒸発法で生成した金属原子ビームと反応分子ビームの交差領域でレーザー誘起ケイ光法、化学発光法などによって生成分子・ラジカルの振動回転状態分布を決定した。また、生成物原子については、真空紫外レーザー誘起ケイ光法によって原子のドップラー線型、スピン-軌道状態の分布などを決定した。これらの情報を基に、反応機構・電子状態と反応性の関係を解明した。具体的に研究を行った系は以下の反応である。 Al(^2P_<1/2,3/2>)+O_2(X^3Σ^-_g)→AlO(X^2Σ^+)+O(^3P_J) (1) Y(^2D_<3/2,5/2>)+O_2(X^3Σ^-_g)→YO(X^2Σ^+,A^<,2>Δ_<3/2,5/2>,A^2II_<1/2,3/2>)+O(^3P_J) (2) 反応(1)では、Alの2つのスピン-軌道状態を選別して反応観測を行い、それぞれのスピン-軌道状態から生成するAlOの振動回転状態分布を決定した。また、O原子のスピン-軌道状態の分布を決定した。AlOの内部状態はAlの初期状態によらずほぼ統計的な分布となり、どちらのスピン-軌道状態にあるAl原子も寿命の長い錯合体を経て反応が進むことが示唆された。O原子のスピン-軌道状態は統計的な期待値とは異なり、電子状態の変化は錯合体よりも錯合体生成とその解離の際に起こっていることが示唆された。 反応(2)では、YO(A^2II_<1/2,3/2>)の化学発光を解析することによってその振動回転状態分布を決定した。また、O原子のドップラー線型を解析することでYOの電子基底状態/電子励起状態生成の分岐比を見積もった。この反応系もやはり寿命の長い中間体を経て進むと考えられるが、反応経路は2つ以上有り、それらがほぼ同じくらいの確率で起こっていると結論された。
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