研究概要 |
動物個体群の周期変動のメカニズムを解明するために,北海道のエゾヤチネズミ189個体群の変動様式を密度依存性に着目して分析した.個体数の変動は1年遅れと2年遅れの2つの密度依存性によってよく記述され,周期的な変動の形成には2年遅れの密度依存性が重要であることを明らかにした.また,年次的な密度依存性を季節成分に分析することに成功し,一年遅れの密度依存性は冬の方が夏よりも強く,密度依存性の強さに季節間で相関がないこと,2年遅れの密度依存性は夏と冬にほぼ同じ強さで,季節間に相関があること,を明らかにした.1年遅れの密度依存性には繁殖と死亡に関わる少なくとも2つの要因が,2年遅れの密度依存性には死亡に関わる要因が重要である,と考察された.年次的なデータだけから季節的な密度依存性を推定する手法を開発し,季節ごとのデータから直接求めた結果と比較し,一貫した傾向が見られることを確認した.地理的な分析から,1年遅れ,2年遅れの密度依存性はともに北東に向かうほど強くなり,周期性が強まることも明らかにした.北海道は西の暖流,東の寒流の影響を受けるため,北東に向かうほど寒冷となり,冬が長くなる.冬には密度依存性が強いので,北東部では年次的な密度依存性が強まると考えられ,密依存性の季節成分の分析と地理的変異の分析結果がよく一致した.密度依存性に関するこのような特徴はヨーロッパの個体群と多くの点で類似しており,エゾヤチネズミおける研究成果は高い一般性を持つことがわかった.密度依存性に加えて個体群間の同調性も分析した.その結果,数年に一度,広い面積にわたって起きる低密度年によって,長期間の同調性が維持されることがわかった(カップリング).カップリングの頻度が高いほど同調性も高まるが,エゾヤチネズミで観察されている程度の同調性には4,5年に1度のカップリングで十分であることも明らかにした.
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