研究概要 |
ワイヤ放電加工における放電エネルギ,放電頻度,ワイヤ送り速度,工作物板厚,ワイヤ径,ワイヤ張力などの諸因子が,ワイヤ電極の振動やたわみ,ならびに放電ギャップ長に与える影響を考慮に入れ,ワイヤ放電加工の形状精度をシミュレーションできるプログラム開発を行った.具体的には,工作物の側面に沿ってメッシュ分割し,3次元的に振動するワイヤ電極と最も距離が近いメッシュを探索することによりそのメッシュに放電を発生させる.次にそのメッシュで工作物の除去と,放電衝撃力によるワイヤ電極への力積の負荷を行う.次に力積の負荷に伴うワイヤ電極の振動変位を解析し,その結果を次の放電パルスにおける放電位置の探索の際に反映させる. 平成14年度は,まずシミュレーションに使用するデータベースを構築した.具体的には,放電1回当たりの工作物除去体積,放電遅れ時間,加工反力,加工液の粘性係数,加工液の誘電率についてのデータベースである.工作物除去体積は加工実験から求めた.また,残りのデータベースについては,逆問題法を用いて求めた.つまり,加工形状結果とシミュレーション結果が許容誤差内で一致するように,パターン探索法によりパラメータを同定した.そして,プログラムを実行し,仕上げ面の真直度,ギャップ,コーナ部・エッジ部の形状精度などをシミュレーションした.その結果を実験結果と比較し,シミュレーション精度を評価した結果,1.5ミクロンの精度で形状が一致した. 平成15年度は荒加工(ファーストカット)用のシミュレーションプログラムを開発した.仕上げ加工(セカンドカット)用のシミュレーションプログラムは平成14年度までに完成しているので,それを基にして工作物形状のモデリングの方法をファーストカット用に変更した.また,直線の切断だけではなく,コーナ切断のシミュレーションを可能にした.次に,シミュレーション精度を評価するための加工実験を行い工作物形状を測定し,加工実験結果とシミュレーション結果とを比較した.そして,ワイヤ張力や工作物送り速度の違いが,加工溝幅や,加工溝側面と加工溝前面の真直度などに及ぼす影響を調べ,実験結果とシミュレーション結果が定性的に一致することを確認した.しかし,放電点での加工反力,放電ギャップと放電遅れ時間の関係,加工くずや気泡が混在する加工溝内での加工液の誘電率や粘性係数など,ファーストカットに必要なデータベースが未知であるため,定量的な一致には至らなかった.今後,定量的なシミュレーションを可能にするためには,14年度にセカンドカットで行なったように,逆問題法を用いてファーストカットのシミュレーションに必要なデータベースを正確に求める必要がある.
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