研究概要 |
火炎内に生成されるすす前駆物質である多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon : PAH)の生成機構を調べることを目的に,高温・高圧下の燃焼に適用可能な吸収・発光スペクトル(Excitation Emission Matrix : EEM)法の開発を行った.EEMを高温・高圧下の燃焼場に適用する際に参照データとして必要な高温・高圧下の単一成分PAH(アントラセン,フロランセン,ピレン)のEEMスペクトルデータを衝撃波管を用いて計測した. 次に,励起波長355nmと266nmを用いたLIF計測を急速圧縮装置内に実現した非定常燃料噴霧火炎に適用し,各励起波長によるLIF画像の撮影とLIFスペクトルの分光計測を行った.得られた結果から以下の知見を得た. (1)波長355nmの励起光により得られた発光画像に比べて,266nmの励起光を用いた場合には噴霧火炎内でレーザーシート入射側のみに強い発光領域が観察される.これは,266nmの励起光では,より多くの物質による吸収・発光が生じていることを示唆している. (2)355nmの励起光の場合には着火直前に燃料の低温酸化反応により生成されたホルムアルデヒドによる蛍光スペクトルが観察されるが,266nmの励起光の場合にはホルムアルデヒドからの蛍光スペクトルは観察されず燃料中に微量に含まれる蛍光物質からの微弱な蛍光が観察される.この燃料からの蛍光とは別に,着火とほぼ同時にPAHからと考えられる強い励起発光が発現する. (3)着火後では,いずれの励起光を用いた場合でも,噴孔から35mm-55mm下流でPAHのLIFが計測される.さらに下流域ではPAHのLIFにすす粒子からの励起赤熱放射が重なる.
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