研究概要 |
近年,コンピュータ支援外科手術あるいは医療ロボットが国外,国内で注目され,特に医療現場からの期待が高まっている.これは,21世紀初頭の高齢化社会において,老人医療や在宅医療の需要が急増すること,ならびに最先端の医療分野では高度な工学技術との融合が不可欠であることが,一つの社会的背景となっている.特に,遠隔手術支援システムの開発は,その重要性と社会に与えるインパクトから,研究開発のドライビングフォースになっている. 技術開発の動向としては,大きく二つの流れがある.一つは,手術室で働くスタッフの数を減らすように作業の自動化・省力化を目的とし,手術機器を高度にインテリジェント化するためのコンピュータ援用技術である.もう一つは,術者自身が遠隔の手術環境と仮想的に対面し,組織に触れた感覚を伴いながら手術を行うためのバーチャルリアリティやテレロボティクスの技術である.いずれにしても微細作業技術は不可欠なものとなっている. 本研究では,人間の自然な作業動作に則した直感的操作が可能な遠隔手術システムの実現を目指した. 本年度の研究実施報告 1.提案するシステムが有効に働く手術内容を整理し,これを模擬した操作タスクを設定した.その上で,どのようなスケーリングパラメータ(位置,力)が最適か,医師の協力のもと実験的に検討した.このとき,術者個人が操作し易いと感じるスケーリングパラメータを重視し,逆にそのスケーリングが如何に理に適っているかを明らかにした.また,術者の手腕のインピーダンスの測定・解析も同時に行い,力学的な観点から技量との関係に関しても検討した. 2.縫合の場合,組織内に針が刺通するに従って,針が見えなくなることで視覚情報のウエートが低下し,代わって刺通抵抗が増すことで力覚情報のウエートが増大する.しかし,術者にとって,力触覚情報と視覚情報の両者が重要であることから,複合現実感の技術を使い,実画像に仮想針を重ね合わせた.仮想的に針を透視した形となり,組織内の針の動きが確認でき,力覚との整合も取れ,直感的操作が可能となった.さらに,柔軟な生体組織(具体的には肝臓)を仮想的に再現すべく,物理パラメータの推定,変形形態および変形力を定量的に評価した. 3.医学部による臨床実験,臨床評価の実施に向けて準備を行った.
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