研究概要 |
本研究は,元素添加による新しい手法に基づき高温超伝導体の積層型ジョセフソン接合の作製技術を確立し,それを回路応用に耐え得るレベルにまで高度化することを目的としている。得られた知見を以下に述べる。 1.接合特性を劣化させる要因の検討:Pr,Gaの添加によるピンホールの抑制に加え,さらにばらつきの改善や特性の向上を目指して,ばらつきや特性劣化の要因を検討した。障壁層形成時のエッチングによる表面モフォロジー変化が接合特性と関係することを見出し,実用目標温度の30Kにおいて臨界電流密度の高いオーバーダンプ特性の接合を得た。この接合は特性ばらつきも小さく,これまでにない高品質の接合であった。 2.La置換によるYBCO薄膜の平坦化:YBCOのYまたはBaの一部をLaに置換することにより,接合作製や集積化の際の多層構造形成において障害となる穴の発生が抑制されることを確認した。 3.TEMによる障壁層構造の検討:接合特性に大きな影響を及ぼす障壁層付近の微細構造を断面透過電子顕微鏡(TEM)により調べた。障壁層形成時のArイオン加速電圧の高い方が障壁層付近にY_2O_3相が明瞭に観察された。加速電圧と接合の臨界電流密度との関係などを合わせて考えると,臨界電流密度が大きくなるほど障壁層は薄く均一に形成されていることが示唆された。. 4.上部電極材料の検討:障壁層のピンホールの抑制などのため,YBCOよりも低温で堆積可能なYbBa_2Cu_3O_<7-x>(YbBCO)を上部電極に用いることを試みた。上部電極堆積温度の低減化については明瞭な結果が得られなかったが,同条件で作製した接合では,上部電極にYBCOを用いたものより,YbBCOを用いたものの方が特性ばらつきが小さいことが確認され,YbBCOの何らかの有効性があるものと考えられた。
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