研究概要 |
微細結晶粒組織を有するマグネシウム合金の作製のための新しい手法を開発した.ECAE法をはじめ,高押出し比での押出し加工,多軸鍛造法など,強加工を施して組織を微細化する手法がいくつか提唱されているが,これらは大型材には適用できない.繰返し重ね圧延法は,広幅の板材にも適用可であるが,連続操業には適さない.これに対して,単純に圧延と時効を施す手法は大型材に適するほか,連続化も可能である.この手法の基本となるのは動的再結晶である. そこで,まず高純度マグネシウムについて再結晶挙動を調べた.およそ10×10mm^2,厚さ0.8mmの試料に室温で冷間加工を施した.透過電子顕微鏡(TEM)による観察/解析を行った結果,30%の圧下率で圧延すると,再結晶が生じることが判った.圧下率を80%とすると,試料ほぼ全域で再結晶粒が観察された.TEMによるバーガース・ベクトルの解析を行った結果,非底面辷り系が室温でも働いていることが明らかとなった.すなわち,マグネシウムは本来再結晶しやすい金属であることが示された.しかし,再結晶粒は数10μmと粗大であり,純マグネシウムにおいては,粒成長も容易であることが判った. 粒成長の抑制には析出物の利用が有効であると考え,Mg-Li-Zn合金について,溶体化後,時効し,その後(α+β)2相域で圧延した.その結果,αおよびβ粒いずれも微細になった.しかし,Mg-Li-Zn合金は実用的にはほとんど用いられていない合金である。そこで,実用に供されることの多いAZ31BおよびAZ91E合金について,この手法を,圧延→時効→圧延と改良して適用した.その結果,AZ31B合金においては50〜100μmの粒径を3〜5μmとすることができた.AZ91E合金については,200μmを20μmに減少させることができた. 結晶粒の微細化については,上述のように,圧延→時効→圧延法で実現できた,しかし,集合組織は強い底面配向を示した.圧延により強加工を施す限り,この集合組織は避けられない.そこで,波状の起伏を有する金型により,試料を温間でプレスする手法を試みた.1回のプレスごとに試料を45°回転し,15〜18回プレス加工を施した.この際の加工温度は,析出物のソルバス温度以下とした。その結果,試料の板厚減少は約10%程度にしたうえに,結晶粒は微細化し,集合組織は(1012)錐面配向となった.この手法は,一般的なタンデム圧延機のロール形状さえ変えれば実現できるものである.圧延→時効→圧延法の研究により,結晶粒微細化と集合組織の制御の両方を可能にする手法の開発につなげることができた.
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