研究概要 |
本研究の目的は,ナノメートルオーダーの空間分解能をもつ固体表面質量分析法の開発である。局所的に分子を固体表面から脱離・イオン化することが課題となるが,その解決法として,2種類の方法を着想した。一つは,先端径100nmφの光ファイバーを用いた近接場光(ピコ秒レーザー導入)による励起。もう一つはフェムト秒レーザーと金属探針先端での表面増強効果による微小領域アブレーションである。本研究では,それら励起法を検討し,今後の方向性を示した。 前者の実験では,真空中で稼動可能な真空装置・飛行時間型質量分析装置の設計及び製作に取り組んだ。波長355nmのピコ秒パルスYAGレーザー光を光ファイバーの100nmφの先端から発生した近接場光を試料に照射する。紫外光によるアブレーションにより発生したイオンを飛行時間型質量分析器で計測するものである。しかしながら光ファイバー先端が強いレーザー光により損傷を受け,数十nmのアブレーションは実現できなかった。 一方,後者の励起では,800nmのフェムト秒レーザーをW探針先端に照射することによりAuやAl表面を幅50nn,深さ10nmの分解能でアブレーション可能なことが明らかになった。フェムト秒レーザーは非熱的加工などで特徴的な加工性を示すが,表面増強効果により回折限界を超えた空間分解能でのアブレーション加工を示した初めての例である。今回,そこからの発光を測定しようと試みたが,原子発光やイオン発光は観察できなかった。これは検出系の光学系の最適化がまだされていないこと,極短パルスのためプラズマ状態で励起を増強する光がないことなどが原因と考えられる。今後,励起用レーザーを導入することにより元素分析法へ展開したい。
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