研究概要 |
データが取得された座標を考慮する全ての分野で,精度の高い空間分布推定は不可欠である。このときデータ分布よりも更に広い範囲,あるいはデータの空間分解能以上の詳細な範囲を対象にした場合,推定精度が悪いことは明らかである。しかしながら,スケールを超えた空間分布推定が重要となるケースは,地球科学の分野で多い。例えば,ボーリングコアという大きさが限られた範囲からの地質の物性や特徴を,フィールドスケールまで外挿する場合などである。このようなマルチスケールでの空間分布推定法について検討し,焼き鈍し法を用いた地球統計学的シミュレーション法が適していることを見出した。本手法ではデータやセミバリオグラムのスケール則が考慮されている。 その適用対象例として,多孔質岩石の模擬モデルであるセメント気泡材を選んだ。計算の対象領域は1×1cm^2,5×5cm^2,10×10cm^2,50×50cm^2,1×1m^2,5×5m^2と拡大するが,空隙率は一定におく。領域の大きさとその中に含まれる最大空隙,および最大空隙半径とセミバリオグラムとの間には関連性があることがわかり,任意の大きさの領域における空隙分布のモデリング法が確立できた。2次元空隙分布モデリングの結果から,空隙率は一定であるにも拘わらず,領域が大きくなるにつれて空隙の最大連結距離は増大することがわかった。これが透水係数のスケール効果の主な要因であると考えられる。空隙分布と透水係数の実測値について検討したところ,連結空隙の体積の平均値は空隙率の増加とともに急増するが,それは空隙率の増加に伴う透水係数の増加率と類似していた。さらに,代表的な多孔質岩石であるBerea砂岩も解析の対象とし,種々の大きさの領域に対して2次元空隙分布モデリングを行った。この結果においても領域が大きくなるにつれて空隙の最大連結距離は急増する傾向が得られた。
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