研究概要 |
(1)鱗翅目昆虫ゲノムには細菌・バキュロウイルスと構造上非常に良く似たキチナーゼ遺伝子が存在する。系統解析の結果この細菌型キチナーゼ遺伝子が3者間で遺伝子水平移動したことが示唆され、我々はこれまでに構造解析・発現解析を行ってきた。今回はカイコの細菌型キチナーゼBmChi-hについて生化学的・組織学的な機能解析を行ったので報告する。バキュロウイルス発現系を用いてBmCHI-hを発現・精製した結果、BmCHI-hは分泌型のタンパク質であり、キチン分解活性をもつことが明らかになった。BmCHI-hはエキソ型の基質選好性を示し、キチナーゼ阻害剤であるアロサミジンへの感受性は非常に低いものであった。免疫組織染色の結果、BmCHI-hは脱皮の際に限定的に発現し、古い外骨格・脱皮液・気管に局在することが明らかになり、脱皮の際のキチン分解に利用されていることが示唆された。以上から、BmCHI-hの酵素学的性質は昆虫型キチナーゼと大きく異なり、細菌とバキュロウイルスがもつオーソログと類似すること、その一方で、BmCHI-hと昆虫型キチナーゼの発現時期・発現組織はほとんど同一であり、両者はおそらく協奏的にキチン分解を行っていることが示唆された。 (2)カイコゲノムからバキュロウイルスのLd130に相同なENVタンパク質をコードするレトロウイルス様因子を3種類発見した。それらのゲノム構造とcDNA構造の比較から,ENVのみをコードするサブジェノミックRNAの存在が証明された。また,そのうちの一つAquilaについては培養細胞で約100倍にコピー数が増えていることが判明した。 (3)カイコのゲノム塩基配列のなかで12カ所から,カイコミトコンドリアDNAと相同性のある配列が発見された。ゲノムPCRで調査した結果,これらの配列は,ミトコンドリア由来ではなく,染色体由来であることが示された。また,さまざまな品種やクワコのゲノムDNAを調べた結果,多くの品種でこのミトコンドリア相同配列の挿入が保存されていたが,1カ所だけはクワコへ挿入されておらず,カイコ特異的な存在が判明した。
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