研究概要 |
我国では近年,野生動物に寄る農林業被害が拡大し,人間と野生動物の共存の必要がさらに求められている.これまでの農林業被害対策は動物の生態学的性質を十分に理解した上で立てられたものでなかったために有効でなかった.その大きな原因は調査の困難さにあった.最近進展しているGPS発信機による野生動物の位置情報はこの問題解決のひとつの有力な手法になる可能性がある.そこで本課題のプロジェクトでは新技術の方法上の検討をおこなうとともに,ニホンジカ,ニホンカモシカ,イノシシを捕獲してGPS発信機を装着し,その位置情報を収集して解析することとした.しかし農林業被害地では動物の駆除がおこなわれているため捕獲などの実施が困難であり,また被害発生に関与する要因が多岐にわたるため,単純な系での調査を実施した.富士山北麓での基礎調査によるとロテック社のGPS-3300はオープンな環境では非常によい成績が得られたが,森林内では補足率が低下することがわかった.ほかの場所での結果もあわせると自動脱落装置の機能には信頼性が低く重大な課題である.応用例としては富士山のニホンジカは地形のなだらかな場所を使う傾向があり,そのような場所は林業地であるために潜在的に被害発生の可能性をもっていることが示された.オスとメスで違う動きをし,積雪に対応して長距離の移動をした.積雪前の秋に非常に広い行動圏をとった.体の小さいメスのほうが雪の影響を強く受けるようであった.宮城県金華山島のニホンジカの場合,月行動圏面積は5-10haで,夏に狭く冬に広い傾向があったが,富士山のような著しい季節変化はなかった.群落利用は夏から初冬にかけてはシバ群落を選択力に利用したが,森林は好まず,冬にやや選択的に利用するだけだった.シカのこのような森林と群落の往復によって多くの種子が運搬されていることが示された、岩手県盛岡市のニホンカモシカ(1歳オス)の場合,月行動圏面積はほぼ10haだったが,2歳になる前の3,4月に行動圏を移動した.利用したのはほとんどが森林群落であった.このように動物種によって群落利用に違いがあり,そのことは食性などの生物学特性と関連している.これらの知見が農林植物の特性と関連づけて統一的に説明されれば被害対策にとっても有効な情報を提供することができる.同所的に複数の個体の動きを調べることはできなかったが,これが可能になれば社会行動学的な知見も得られ,さらに理解が深まることが期待できる
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