研究概要 |
我々は,膠原病の発症がポリジーン系遺伝素因の協同作用によるものとする考え方を基盤に,疾患モデル動物の交配実験や遺伝学的手法を用いて,遺伝素因群の解明に努めてきた。その結果,多くの新規膠原病モデルマウスの系統樹立に至っている.また一方で、糸球体病変局所に沈着するモノクローナル抗体の解析から、糸球体局所に抗体が沈着する機序の解明にも努めてきた。本研究では、新規モデルの中でも最も重篤な自己免疫性糸球体腎炎の発症と若年致死を表現型とするEODマウスと、その系統から自然突然変異種として樹立され、糸球体腎炎の軽快とともに寿命の延長を表現するシナモンマウスを研究材料とした。EODマウスは、膠原病モデルマウスMRL/MpJ-lpr/lpr (MRL/lpr)とBXSBを始祖とし,この2系統の子孫の兄妹交配から早期死亡を育種の選択指標として樹立されたリコンビナント近交系マウスである。これは両親系統より短命で,その死因は早期発症の半月体形成性糸球体腎炎による腎不全と診断される。一方のシナモンマウスは、EODマウスの樹立後十年余りを経た最近,野生色から薄茶色への毛色の変化に伴って,顕著に寿命の延長を示す亜系統として分離・樹立されたものである。本研究課題では、シナモンマウスを用いて、次の2点を目的とした研究を行った。 1)病理組織学的に糸球体腎炎の半月体形成を抑制した突然変異遺伝子は何であるか? 2)突然変異遺伝子の本来の働きとして、どのような機序を辿って半月体形成を誘導し、糸球体腎炎の重篤化・致死性に関与しているのか? 目的1)に関しては、野生種マウスであるMSM/Msとの交配から得られる子孫を用いて、ゲノムワイドの遺伝関連解析を行った。その結果、半月体形成抑制の原因となった変異遺伝子は、マウス第5番染色体上に存在する新規タンパク(シナモンと命名)であることを明らかにした。目的2)に関しては、EODマウスとシナモンマウスの免疫病態の詳細な比較解析を行い、その結果、血小板機能が半月体形成に大きな役割を果たしていることを明らかにした。 以上の結果は、腎炎成立機序における腎糸球体の半月体形成の病態メカニズムを明らかにしたに留まらず、シナモンタンパクや血小板機能などが、半月体形成性糸球体腎炎に対する分子・細胞ターゲットとして位置づけられ、この難治性・致死性病変の治療の可能性をも導くことになったと言える。
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