研究概要 |
ヒト肝がんで過剰発現しでいるがん遺伝子ガンキリンは、pRbのリン酸化およびその分解(Nat Med,2000,2)を、cyclin D依存性CDK4,あるいは、26S proteasomeのサブユニットS6(Rpt3) ATPaseとの相互作用を介して、促進することにより、細胞をがん化の方向へ進めていた(J Biol Chem 277,2002.)。ガンキリンは、pRb以外のタンパク質MAGE-A4の抑制を介しても、がん化能を発揮することがわかった(J Biol Chem,2003,278)。また、ガンキリンとS6 ATPase、pRb、CDK4などとの複合体形成の状態は、ガンキリンのX線結晶構造解析より、明らかになった(J Biol Chem,2004,279)。さらに、ガンキリンの細胞周期における発現パターンは、cyclin Dと同じく、G1期より発現が上昇し、M期までそのレベルが保持されるものであった。再生の盛んな肝切除後の残存肝や劇症肝炎後の肝臓においても、ガンキリンの発現レベルは亢達していた(J Gastroenterol,2003,38)。ガンキリンと複合体を形成する遺伝子産物MAGE-A4は、プロテアーゼの働きにより、分子内でプロセシングをうけ、その際、発生したカルボキシル端が転写調節因子Miz-1と結合し、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導することが判明した(J Biol Chem,2004,279)。ガンキリンを過剰発現した細胞株では、DNA damageを賦与する薬剤に対して、抗アポトーシス作用を示した。この機序は、Rbやその他のがん抑制遺伝子産物の分解をE3コファクターとして、促進することの可能性が示唆された。in vivoでのガンキリンの肝発がん過程への関与について解析するために、HBV由来のプロモーター、エンハンサーを使用して、ガンキリントランスジェニックマウスを作成した。肝臓組織において、ガンキリントランスジーンの組み込み、および、低レベルではあるが、ガンキリンタンパクの発現を確認した。ガンキリンの発現パターンがかく乱されて、肝臓内に腫瘍の発生が示唆された。
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