研究概要 |
現在まで、我々はヒト神経芽腫(NB)の増殖と分化に果たす神経栄養因子の役割を検討し、(1)NBでのNGFまたはBDNFのシグナルは、TRK-AまたはTRK-B、Shc、ERK-2などのシグナル伝達蛋白のチロシン燐酸化を介する経路で伝達される(Jpn J Cancer Res1994,Acta Pedaitr Jap 1998,Med Pediatr Oncol 2000)、(2)TRK-AはNBの分化に、TRK-Bは増殖に関係しているらしい(Jpn J Cancer Res 2001)ことを明らかにしてきた。今回はFenretinide(FR)のNBのアポトーシス誘導を研究した。 【目的】FRは、細胞にアポトーシスを誘導し、臨床応用が期待されている新規合成レチノイドであるが、その作用機序はまだ完全に解明されていない。最近、ストレス応答性シグナル伝達路であるJNKp38MAPKシグナル路の持続的活性化とアポトーシスとの関連が注目されている。そこで、NB細胞株において、FRによるストレスシグナルの活性化について検討した。 【方法】当施設で樹立されたヒトNB細胞株のうち、FR感受性株としてKP-N-TKを、耐性株として、KP-N-TKをFR存在下で培養して樹立したKP-N-TK(FR-R)株とKPN-SIFAを用いた。これらを10μMのFR存在下で培養した際のアポトーシスをTUNEL法とwestern blot法(WB)によるcaspase活性化で評価した。細胞内活性酸素種(ROS)の経時的変化を、蛍光dyeであるCM-H2DCFDAを負荷したフロサイトメトリーで検討した。WBにて、JNK, P38MAPKの燐酸化を検討した。 【結果】FRはKP-N-TK細胞において、ROS依存性にJNK, p38MAPKを持続的に活性化し、アポトーシスを誘導した。一方、KP-N-TK(FR-R)とKP-N-SIFAにおいては、FRによる細胞内ROS誘導とJNK, p38MAPKの持続的活性化が生じていなかった。 【考案・結論】FR感受性NB細胞株では、FRによるROS依存性のJNK, p38MAPK持続的活性化が、アポトーシスと関連していることが示唆された。一方、FR耐性NB細胞株では、FR存在下でもこのシグナル伝達が生じておらず、このことがFR耐性と関連していると考えられた。
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