研究分担者 |
相馬 仁 札幌医科大学, 医学部, 助教授 (70226702)
山本 恵 札幌医科大学, 医学部, 助手 (90347170)
小澤 寛樹 長崎大学, 医学部, 教授 (50260766)
加藤 忠史 理化学研究所, 精神疾患動態研究チーム, チームリーダー (30214381)
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研究概要 |
我々はこれまで,アルコールが細胞内セカンドメッセンジャーを介する情報伝達系に変化を及ぼすことを示してきた。すなわち,家族歴の濃厚な患者の血液細胞において,ACI, ACVIII及びGsαのmRNA量の有意な減少を示した。一方,慢性のアルコール摂取による脳内情報伝達系の変化は,AC系の他にCa2+系が注目されていることから,1)アルコールによるCa2+伝達系への影響をヒト死後脳及び培養細胞を用いて検討した。アルコール依存症患者群で,Ca2+結合蛋白質,アネキシンIVの量が有意に増加していた。また,A549細胞において,アルコールによるアネキシンIVの発現量増大が示された。cAMPの情報は転写因子CREBの活性化を介した神経可塑性変化に重要な役割を担う。そこで次に,2)アルコールが転写因子活性に及ぼす影響について,神経細胞障害性を軸に検討した。SH-SY5Y細胞を用いた検討で,アルコールは用量依存的な細胞障害性を示すとともに,核内CREB活性及びCREBによって発現調節を受けるBDNFの細胞外分泌量を減弱させた。また,同細胞においてアルコールは転写因子NF-□B活性を増強させたことから,アルコールによる神経細胞の可塑性・脆弱性にCREB-BDNF経路の減弱とNF-□B経路の活性化が影響することを示唆した。一方,胎生期・発達期における多量のアルコール摂取により,脳各部位の神経細胞に障害が生じることが報告され,このことが,その後のストレス応答に変化をきたし,種々の適応障害や行動異常を誘発すると推察されている。そこで,3)神経細胞の生存と神経幹細胞の分化誘導能におよぼすアルコールの影響について検討し,アルコールが栄養因子シグナル伝達系を変化させることにより神経細胞の生存,及び神経幹細胞の分化機能を低下させ,神経回路網の維持・修復機能を減弱させている可能性を明らかにした。
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