研究概要 |
骨肉腫は骨形成細胞が悪性化したものと考えられているが、我々は、骨形成細胞がエストロゲンによって影響を受けることに注目し、骨軟骨組織におけるエストロゲンの役割について検討した。この結果、エストロゲンのない状況でdown-regulateされ、エストロゲン補充により発現が正常化していた9個の既知遺伝子と43個のExpressed sequence tagsを特定した。9個の既知遺伝子についてRT-PCRで発現パターンを確認したところ、4遺伝子[Collagen type II(COLII),extracellular superoxide dismutase(SOD),plasminogen activator(u-PA),DDR1]が、DNAマイクロアレイの発現パターンと一致し、これらの遺伝子はエストロゲンによってregulateされていると考えられた。さらに、u-PAはタンパクレベルでもエストロゲンによりregulateされており、その発現部位は軟骨と骨の境界領域のchondrocyteとchondroclastに認められた。U-PAは、胎生期のenchondral ossificationにおいて、骨と軟骨の境界部位のchondrocyteに発現し、matrix のturnoverに重要な役割を持つことが示唆されている。骨と軟骨の境界部のchondrocyteやchondroclastにu-PAの発現が認められ、骨軟骨組織におけるmatrix turnoverに関わっており、エストロゲンがこの制御を行っている可能性が示唆された。また、u-pAは乳癌をはじめとした悪性腫瘍で、局所や転移の進展に関わる因子とされている。骨肉腫においてもu-PAが局所浸潤や転移に関わる可能性が示唆された。SODは、細胞毒性があり、癌化との関連のあるオキシジェンフリーラジカルを除去する作用を持つが、このSODについても骨肉腫の癌化に関わる重要な因与であることが示唆された。DDR1は、放射線照射によって制御される遺伝子と報告され、また、がん抑制遺伝子p53との関連も報告されている。骨肉腫ではp53の異常が効率に認められており、DDR1も骨肉腫における癌化に関係する可能性が示唆された。一方、p53やp53に関連するcdk4,mdm2などの細胞周期関連因子は、骨肉腫のみならず、脂肪肉腫の悪性化にも関与しており、脂肪肉腫と良性脂肪腫を鑑別するうえで重要なマーカーであることを明らかにした。今後は様々な癌腫や肉腫の悪性化におけるこれら因子の役割をさらに検討する予定である。
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