研究概要 |
【目的】定量的PCRであるreal-time PCRは,より正確なDNA定量を可能にした.本研究では.単純ヘルペスウイルス(HSV)の関与が疑われた眼疾患患者を対象とし,real-time PCRを用い,涙液,前房水,角膜組織中のHSV-DNAの定量を試み,また定性PCR,螢光抗体法との比較,及びその有用性を検討した.【方法】涙液サンプルは患者の各眼を生理食塩水500μlにて眼表面を洗い回収するeye wash法にて採取し,前房水サンプルは患眼から約100μlを採取した.角膜組織は角膜移植術施行時に採取した.各サンプルからDNAを抽出後,real-time PCRを用いサンプル中のHSV-DNAを定量した.また角膜ヘルペス患者の角膜擦過物をFITCモノクロナール抗体法にて染色しHSV抗原の検出率とreal-time PCRによる涙液中HSV-DNAの検出率を比較した.【結果】上皮型角膜ヘルペスの涙液中では平均3.9×10^6 copies/sample(検出率:81.1%),活動期実質型角膜ヘルペス:平均8.9×10^5 copies/sample(59.1%),遷延性角膜上皮欠損:平均9.2×10^4copios/sample(88.9%),壊死性強膜炎:1.1×10^4 copies/sampleであり,上皮型角膜ヘルペスにおけるHSV-DNA量は活動期実質型角膜ヘルペスと比較し有意に多かった.鎮静期実質型角膜ヘルペスおよび角膜内皮炎では全例検出感度以下であった.ぶどう膜炎患者の前房水では3.8×10^5 copies/ml (16.7%),角膜ヘルペス既往患者における母角膜では,平均1.3×10^4 copies/mg(85.7%),既往歴のない患者においても平均1.8copies/mg(11.1%)を検出した.また定性PCRと比較しreal-time PCRの検出感度は高く,蛍光抗体法によるHSV抗原の検出率よりも高かった.【考察】従来,HSV自体の関与が少ないと考えられていた活動期実質型角膜ヘルペス,遷延性角膜上皮欠損の涙液中に相当数のHSVゲノムが存在し,治療経過に伴いゲノム数が減少したことから,これらの疾患において感染性ウイルスの関与の可能性が示唆された.また壊死性強膜炎の一因としてHSVが関与していることが判明した.【結論】Real-time PCRを用いたHSVゲノムのモニタリングは,ヘルペス性眼疾患に対する投薬量,治療方針の決定に有用である.
|