研究概要 |
1.面圧分布測定システム(I-Scan,ニッタ)をもとに,硬口蓋部に発生する舌圧を計測するセンサ・シートを開発した.それにより,咀嚼や嚥下の際の舌の活動性を非侵襲的かつ定量的な計測が可能となった.センサ・シートはT字型で,厚さ0.1mm,5つの計測点を持ち,定格容量70kPa,精度0.27kPaである.硬口蓋部における計測位置を規格化するために,対象に応じて大,中,小の3つの寸法の中から適当なものを選んで使用する.使用する際は,上顎義歯口蓋部あるいは直接口蓋粘膜に,義歯用安定材を用いて接着する. 2.センサ・シートの有用性を確認するために,嚥下障害を有する脳卒中患者ならびに舌切除患者において舌圧の大きさを計測した.本センサ・シートを用いることにより,嚥下能力に影響すると思われる舌機能の特徴が明らかとなった.舌接触補助床が脳卒中患者の嚥下能力に及ぼす影響についても,舌圧の変化によって検証することができた. 3.嚥下障害に対する定量的診断基準を開発するために,自発嚥下における舌圧と嚥下関連筋群の時間的協調性について検討した.健常被験者を対象に,15mlの水を嚥下する際の舌圧(Tp:圧力センサを埋入した口蓋床にて計測),顎二腹筋前腹(Da),咬筋(Ms),甲状舌骨筋(St)の表面筋電図,さらに嚥下音(Ss)の同時計測を行い,各事象の時間軸上における順序について統計的な分析を行った.Daの筋活動はTp,Ms,Stに先行して開始しMsの筋活動はTp,Stに先行して開始した.Msの筋活動は,Da,St,Tpに先んじてSsとほぼ同時に静止し,Daの筋活動はほぼTpの消失まで継続し,最後にStの筋活動が静止した.これらの結果より,舌圧発現と嚥下関連筋群活動との間には,食塊の安全な搬送という見地から合理的な時間的協調性が存在することが示され,嚥下障害の定量的診断基準となり得ることが示唆された. 以上の研究結果より,我々が開発した舌圧センサ・シートは,口腔・咽頭の嚥下障害の診断システムを確立していく上で有用な機器であるという結論に至った.
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