研究概要 |
接着性レジンセメントが歯科用途に導入されて20年を経過したが,その基材はアクリル系樹脂のまま変化していない。このため,接着強度は導入当初のままで20〜30MPaという値にとどまっている。これが主な原因となって,接着技術を応用した補綴治療には様々な制約が存在する。歯科用接着システムの進歩は,操作性と接着耐久性の向上の面だけで行われてきた。しかし,接着強度の面では改善が計られていないので,上記のような制約があり,性能の限界スレスレで用いられている。このため,最近では新しい接着性補綴修復の術式紹介なども稀となり,沈滞した状況となっている。この状況の打破を可能とする最も最短のアプローチが高強度接着システムの開発である。歯科領域における類似の検討は世界的にもほとんど試されていないのが実状である。高強度接着を実現するためには,被着体,接着界面,接着剤層の三者がいずれも高い凝集強度および接着強度を有することが不可欠である。今回の研究では,凝集強度の高い被着体として,金銀パラジウム合金および酸化ジルコニウムを採用した。また,接着剤としては従来型のアクリル材質のものに加えて,コンポジットレジン系およびポリイミド樹脂の応用も試みた。接着成分としてVBATDT貴金属接着性モノマーおよびMDP非貴金属接着モノマー,4-METAモノマーのいずれかを配合したり,プライマーシステムとして使用した。接着試験片の作製では,接着剤層を可能な限り薄くした。これは接着剤層中の気泡や欠陥の数を減らして,応力の集中箇所を少なくすることを目的とする。このため,試験片作製時には,20〜50MPaの荷重を行い,接着剤層を0.1〜1μmとした。また,試験片作製時の温度は,通常の20〜25℃よりも高目の40〜45℃として,接着剤のフローとともに,被着体との反応性を向上させた。しかし,操作可能時間が大幅に短縮されたため,従来の方法では正確に接着操作を行なうことが困難となった。そこで,各種の治具を組み合わせて,半自動で接着操作を行う装置の試作を開始した。現在はまだ,部品の加工中であり,今回の研究期間では完成させることができなかった。今回試作した接着システムは,接着直後であれば80MPa前後の接着強度を得ることができ,ほぼ,所期の目的を果たすことができた。特に,フィラー含有率を最小限にとどめたコンポジットレジン系接着剤では最も良好な結果を得ることができた。しかし,接着耐久性はかならずしも十分ではなく,改善が今後の課題である。
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