研究概要 |
本研究は,エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX900:島津社製)を使用し,歯科修復材料の成分分析による製品識別法を個人識別に役立てる目的で行った。この分析装置は,被検体を破壊せずにそのままの状態で検査することが可能であり,法医学的な証拠保全の立場からも非常に利用価値が高い。 最初に,A社の金属焼付け用陶材のうち,表層付近で使用されるトランス・エナメル用陶材14種類の試験体を作製し,EDX900を用いて成分分析を行い,分析に関する方法を確立した。同時に,1製品内での種類別の構成元素ならびに定量値を測定し,製品名識別のための基礎データとした。 以上の方法を確立した後,ここ10年間で日本国内で市販されたトランス用およびエナメル用陶材,6社11製品,計76種類についてエネルギー分散型蛍光X線分析装置による成分分析を行い,データを作成した。さらに,実際に模型上で,シェードのみA3に指定して技工所で作製した6製品の陶材焼き付け金属鋳造冠の陶材の製品名による異同識別の可否についても検討した。 定性分析により,Na,Al,Si, K,など20種類が検出され,会社間で構成元素に違いが認められ,製品会社の識別はすべて可能であった。つぎに,長石,ガラス系の計16種類の標準物質を用いた検量線法による定量分析を行ったところ,いずれの種類でも元素構成比はSi(55〜70%),Al(10〜17%),K(7〜12%)の順に高く,SiおよびZr(0.1〜1.1%)などの元素で製品間に差が認められた。 76種類の試験体について定性・定量分析した結果,全6社の会社の識別および11製品中4製品の識別が可能であった。最後に,6製品の陶材で作製した陶材冠について,検出した元素の種類およびエネルギーのピーク位置は,それぞれの製品を使用して作製した試験体の結果と合致し,識別が可能であった。
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