研究概要 |
メチル水銀によって引き起こされる小脳神経細胞の変性について,その機構を分子レベルで解析し,水俣病発症機構のみならず,様々の外因によって引き起こされる選択的神経細胞変性の機構解明にも貢献することを目的として,特にアルツハイマー病における神経変性過程への関与が示唆されているcalpain、P35、cdk5カスケードに着目して検討を行った。 これまでに,メチル水銀の標的部位の一つである小脳の初代培養系において,ごく低濃度(10-30nM)のメチル水銀による神経細胞変性が曝露48〜72時間目に不可逆的なものへと決定される試験系を確立している。この,メチル水銀曝露によって誘導される小脳初代培養細胞死に対するcalpain阻害剤およびcdk5阻害剤の影響について調べた結果,その神経細胞死を両阻害剤が抑制することが明らかになった。さらに,メチル水銀曝露により小脳初代培養神経細胞においてcalpainの基質であるα-fodrinが分解されていたことからメチル水銀によるcalpain活性化が確認された。しかしながら,メチル水銀処理によるp35からp25の断片化ついては,calpainの阻害剤を用いてもその断片化は若干抑制されるだけで,cdk5により生じるリン酸化tauの量は,メチル水銀処理後もほとんど増加しなかった。またメチル水銀は,小脳神経細胞死を生じる30nMという低濃度でも、細胞死決定時期にあたる曝露24時間後で,有意にFluo-3により検出される細胞内カルシウム濃度を増加させた。 以上の結果から,メチル水銀は細胞内でcalpainの活性化を引き起こし,p35からp25へ一部断片化を誘導するが,この断片化だけではメチル水銀による細胞死を全ては説明できず,活性化したcalpainによる軸索等の細胞骨格系蛋白質の分解など他の機構も関与している可能性が示唆された。
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