研究概要 |
スフィンゴシン1-リン酸(sphingosine 1-phosphate ; Sph-1-P)の血管生物学における重要性を明らかにし,さらには,その測定の臨床検査医学への応用を目指すべく,以下の重要な結果・知見を得ることができた. 1)血管内皮細胞・血管平滑筋細胞における,(Sph-1-P受容体としての)EDG受容体の情報伝達機構の解明:EDG-1(S1P1)優位の内皮細胞,EDG-5(S1P2)優位の平滑筋細胞それぞれの情報伝達機構の解析を行った.過去の報告を確認するとともに,内皮細胞におけるEDG-5の軽微な発現が,遊走反応の制御に貢献しうることを明らかにした.また,Sph-1-Pが,EDG-5さらにはRho/Rhoキナーゼを介して平滑筋収縮反応をもたらすこと,これはEDG-5アンタゴニストにより抑制されることを明らかにした.将来のその治療的臨床応用に道を開くものである.さらには,活性化血小板に由来する種々の生理活性物質の中で,このSph-1-Pが特に血管平滑筋細胞収縮惹起因子として重要であることを確認し,すでに詳細な機能が明らかとなっているトロンボキサンA2と相補う形で作用を発揮している可能性を提唱した. 2)ラット肝実質細胞においては,Sph-1-Pが増殖抑制作用を呈することを明らかにした. 3)Sph-1-P測定法の開発:SPh-1-Pのアミノ基をo-フタルアルデヒドと反応させ,発せられる蛍光を測定することによりSph-1-Pを定量する系が確立した.新しい抗Sph-1-P抗体を用いてイムノアッセイの系を確立し,Sph-1-Pスタンダード標品は再現性高く正確に測定できることを確認したが,スフィンゴミエリンが多少ながらも測定系に影響することが判明し,臨床検査として使用することは困難と考えられた.現在,前者を用い,血漿検体の最適採取条件を決定しつつある.
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