研究概要 |
栄養補給は,消化吸収のために消化器官の血流を増大させるだろうと考えられてきた.一方,運動は活動筋への血流再配分を増大させるため,腹部内臓血流を減少させるだろうといわれてきた.このように,血流調節に対して相反する栄養補給と運動刺激を同時に与えた場合,生体はどちらを優先させるのだろうか,といった疑問については,まだ十分な説明がなされていない.本研究ではこの点を明らかにするため,第一実験では,グルコース,フルクトース,あるいは水の摂取が腹部内臓の主要血管である上腸間膜動血流(SMBF)に及ぼす影響について,健康な成人女子を被験者として検討した.SMBFは超音波ドップラ法により計測した.その結果,グルコース摂取のみが,SMBFを有意に増加させることが示された.フルクトースと水摂取は,SMBFに有意な変化をもたらさなかった.第二実験では,グルコース取前(対照条件)と摂取後において,随意最大筋力の30%の負荷で2分間握力発揮を維持した時のSMBFを比較した.対照条件の静的運動時におけるSMBFは,安静時値より低下することはなく,むしろ僅かに上昇した.またグルコース摂取後の同一運動時におけるSMBFは,顕著に増大した.これらの結果により,上腸間膜動脈においては,「運動」刺激により顕著な血流減少はないが,「栄養摂取」が「運動」刺激よりも優先されることが示唆された,第三実験では,上記の結果に基づくと,運動時におけるSMBFの調節には筋代謝受容器反射が有効に働かないことが示唆された.その真偽を運動後筋虚血条件において検討した,その結果,筋代謝受容器反射を活性化させた虚血時のSMBFは,運動時に等しいレベルまで上昇し,代謝受容器反射を介する「筋虚血」刺激が,SMBFの調節には有力な作用をもたないと考えられた.
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