研究概要 |
兵庫県北部の大沼湿原で2本のオールコアボーリング試料と定方位サンプリング手法による3本のボーリングコア試料を採取した.これらの試料について,テフラ分析,AMS-^<14>C年代測定,花粉分析,珪藻分析,粒度分析,反射率や帯磁率の測定等を行い,大沼湿原の形成過程および最終氷期以降の詳細な古環境変遷を以下のように明らかにした.大沼湿原地下には厚さ65m以上の堆種物が存在する.上位の厚さ約17mは泥炭や粘土を主体とする細粒堆積物であり,下位の厚さ約50mは妙機を主体とする粗粒堆積物である.細粒堆積物中には上位より,アカホヤ火山灰,三瓶浮布火山灰,大山弥山軽石,大山下のホーキ火山灰,姶良Tn火山灰,大山偽ホーキ火山灰が挟まれる.このうち2層の広域テフラの噴出年代と30層準以上で得られたAMS-^<14>C年代,および珪藻化石の出現状況から,大沼湿原は約4.1万年前に中国山地東部の鉢伏山北東斜面で大規模地滑りにより形成された凹地に起源を有し,約3.2〜2,9万年前と約1.3万年前以降は湿原として,約4.1〜3.2万年前と約29〜1.3万年前は池沼として発達してきた.約17m以浅の花粉化石群集はI帯〜VII帯の7つの局地花粉帯に区分され,I・II・IV帯ではツガ属・モミ属・トウヒ属・マツ属などの針葉樹を,III・V帯ではカバノキ属を,VI帯ではスギを,VIIはブナ属やコナラ属コナラ亜属などの落葉広葉樹を,それぞれ主体とする古植生が復元された.テフラ降灰層準を除くと,細粒堆積物の色調(反射率),帯磁率,粒度,熱損失量は小刻みな周期的変動を繰り返している.時代的には,それらはD-0サイクルやハインリッヒイペントに対比される可能性がある.定方位コア試料からは約3.2〜3.5万年前の詳細古地磁気変動が復元でき,新たに開発した定方位サンプリング手法の有効性が示された.しかし,コア堆積物の上下に乱れが生じており,手法改良の必要性が明らかになった.
|