研究概要 |
本研究課題の目的は,NP完全である制約充足問題について,近年報告されている相転移現象の存在を観察するとともに,その発生原因やメカニズムを原理的に明らかにすることである.この目的に基づいて,(1)組合せ的複雑さをもつ具体的問題を組織的かつ安定的に生成する方法を考案した.また,(2)大規模かつ複雑な現実問題に対する制約充足システムを開発した. (1)では,典型的な制約充足問題の例であるグラフ色塗り問題について,相転移現象が発生する条件が満たされている付近のグラフを生成する構成的手法を提案・改良した.実際にこのような問題をランダムに合計330万個生成して,現在知られている最速のアルゴリズムで処理したところ,非可解なものについては全ての問題が,組合せオーダ(頂点数の指数オーダ)の処理コストを必要とすることが分かった.また,可解なものについても平均計算コストが組合せオーダの処理コストがかかることが分かった.これらの結果は,本研究によって初めて明らかにされた性質であり,'P≠NP'を強く示唆しているが,この決定問題を最終的に解決しているわけではない.今後,最終解決への努力が必要とされる所である. (2)では,制約充足の応用モデルとして,フロア内の機器配置を変更する際の作業計画を立案する問題(フロアレイアウト変更計画)に適用したシステム開発を行なった.この問題はプランニングとスケジューリング(それぞれ単一の問題を解いても難しい)の双方を同時に考慮しながら問題を解決しなければならない非常に難しい問題である.本研究では,本問題を制約によって定式化することで,双方の問題を統一的に表現することを可能とした.
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