研究分担者 |
開 龍美 岩手大学, 人文社会科学部, 助教授 (50181152)
北爪 英一 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (00186248)
吉田 勝一 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (50083407)
笹尾 俊明 岩手大学, 人文社会科学部, 講師 (90322958)
塚本 善弘 岩手大学, 人文社会科学部, 助教授 (70322956)
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研究概要 |
1.硫黄同位体比によって調べたベントス各種の種特異的な採餌様式や餌選択性は,ヨシ原によって維持される浅瀬の泥干潟・砂干潟と密接に関係しており,生息空間として総体的に河口域ヨシ原生態系を評価する必要性がある. 2.河口堰の上流と下流でのモクズガニの定期的捕獲個体調査,および硫黄同位体比による生活史の解析の結果,ヨシ原を含む河口堰下流域が,繁殖行動と上・下流間の移動にとって重要な場を提供している. 3.ヨシの地上部,地下部,根圏土壌の窒素動態からヨシ原生態系の窒素循環を調べた.窒素収支では,地下茎表面での硝化,根圏深部での無機体窒素吸収,およびバイオマス由来の窒素の重要性が指摘された. 4.向流クロマトグラフの応用により有機物と重金属の現場分析法が可能となった.その結果,環境ホルモン作用が疑われるDOP(ジオクチルフタル酸)の検出,および溶存マンガンと亜鉛量の検出がヨシ原に影響される事実を得た. 5.ヨシ原土壌動物に対する「火入れ」効果はミミズ相に顕著だが,リターバッグによる残存落葉量には差が出ない.すなわち,火入れによって土壌動物の落葉分解作用は低下することなく,ミミズによって高い状態で維持される. 6.地域住民は多様であるが,景観の保全にヨシ茅の持続的利用促進が不可欠であるという認識を共通に持っている.これは,国を含めた官民連携組織の諸活動とともに,学校と地域による「環境教育活動」によるものである,この問題が地域としてクローズアップされる一方,上中流域住民一般の認識には温度差が大く,流域の水環境保全には一層の情報提供と意識喚起が必要で,地元自治体による市民団体支援策が望まれる. 7.ヨシ原の保全,休憩施設の設置,親水機能の整備などに対する環境経済的評価は,職種・環境問題に対する関心度・年齢・所得等の個人属性に大きく依存している. 8.日本国内での生態系管理アプローチの重要性は,国と地域のさまざまの集団(学生・自治会・環境NPOなど)レベルで年々高まっている.北上川の場合,たとえば管理保全対象の空間的広がり(河口域か流域全体か)をどう捉えどう考えるのかといった問題を,行政と住民が集合的に決定していくプロセスと場が求められている. 9.風景は人間と自然との交わりが凝縮したものであるから,物理的環境を前提にしているにせよ,単なる空間概念ではない.それは歴史的文化的に形成され,現在と未来の人々の生活をも含むべきで,この様な論点から,ヨシ原の風景の保全と創造を考えるべきだ. 10.河川水系の利水・治水技術は,かつての流域生態系や農林水産業と調和・適合したものへの転換が迫られている.これは流域管理あるいは生態系管理というあらたな流れと結合した環境創造の技術である.
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