研究課題
基盤研究(B)
研究においては、神経系におけるDGKアイソザイムの機能解析について、1)シナプス形成機構、および2)核内情報伝達機構の観点から研究を行い以下の点を明らかにした。1)シナプス形成機構におけるDGKの役割:DGKβ(ベータ)は、脳内において線条体、側座核、嗅球、嗅結節、海馬、および前頭葉の領域に強い遺伝子発現局在を示すことが特徴である。我々はDGKβの機能解析を進めるために、特異抗体を用いて脳内における局在を解析した。DGKβ蛋白は、その遺伝子発現部位に一致して、線条体や海馬などの神経細胞に強い免疫陽性反応を示した。金コロイドを用いた免疫電顕法により詳細な観察を行うと、DGKβは後シナプス側の樹状突起および棘突起の細胞膜に局在することが明らかとなった。ラット脳のウエスタンブロット解析においても、DGKβは脳不溶性画分のうち、PSD画分に多く存在することが示された。次に、遺伝子導入培養神経細胞での局在を観察すると、DGKβは樹状突起の棘突起様構造物にリング状に局在することが示され、脳の免疫電顕の結果を支持するものと考えられた。さらにこのDGKβ遺伝子導入細胞を詳細に観察すると、正常のニューロンに比較し、棘突起様構造物が増加する所見が得られ、DGKβの遺伝子導入により棘突起様構造物の形成が誘導される可能性が示唆される。2)核内におけるDGKの機能的役割:DGKζ(ゼータ)は核移行シグナルを有し、脳内神経細胞の核内に斑点状構造物として認められる。我々は、核内におけるDGKζの機能的役割を追求する目的で、ラット脳虚血モデルを用いてDGKζの局在を検討した。脳虚血-血液再灌流を行い経時的にDGKζの免疫組織化学的検討を行ったところ、20分間の虚血直後から海馬錐体細胞でのDGKζ免疫反応が核から細胞質に変化することが明らかとなった。免疫反応は再灌流後も細胞質に認められ、再び核内に検出されることはなかった。海馬に隣接する歯状核や大脳皮質の神経細胞にはこのような現象は認められなかったことから、DGKζの核から細胞質への移行は海馬錐体細胞に特異的な現象であると考えられた。
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